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インサイドストーリー 04

A2Wの海外への本格展開

SDGsやエネルギー問題への関心の高まりの影響で、欧州における環境保全への意識がますます強くなっています。パナソニックもそのニーズを察知し、環境に配慮した暖房システム「Air to Water」の本格的な欧州展開を実施。ここでは、全体統括を担う小松原と各拠点で業務に取り組むメンバーが集まり、海外展開の苦労や今後の目標を語りあいました。

空質空調社 HVAC欧州事業部 事業部長 兼

PHVACCZ(Panasonic Heating & Ventilation Air-Condtioning Czech)

社長

1993年入社

小松原

空質空調社 HVAC欧州事業部

PHVACCZ(Panasonic Heating & Ventilation Air-Condtioning Czech)

購買部 契約課

2020年入社

渡邉智大

空質空調社

HVAC欧州事業部 事業推進室

温水システム量産開発課 構造設計係

2018年入社

本郷理博

空質空調社 HVAC欧州事業部

PHVACFR(Panasonic Heating & Ventilation Air-Condtioning France)

2021年入社

織田夏菜子

空質空調社 HVAC欧州事業部

事業推進室 商品企画課

2021年入社

酒井将之

環境意識が高まる欧州に、 日本発の「Air to Water」で貢献する。

地球環境への貢献を、現地に合った内容で推進。 環境取り組み先進地域である欧州でスタート。

環境に配慮した暖房システム「Air to Water」(以下A2W)は、大気中の熱を集めて熱交換を行う暖房器具だ。さらに、その熱を利用してお湯を沸かし、給湯設備としても活用する。欧州で一般的な、ガスボイラーで沸かしたお湯を循環させて暖房利用する方式と比較すると、CO2排出量を65%も削減することができるため、環境保護や気候変動対策への関心が非常に高い欧州で大きな注目を集めている。暖房機業界では、2030年には1,000万台強の需要のうち600万台がA2Wに置き換わると予想されているほどだ。パナソニックではこのA2W分野に2008年から参入している。当時、新規事業立ち上げのチームリーダーとしてA2W製品の開発・販売ルートの確保を担った小松原はこう振り返る。

「日本発の技術を使ったA2Wという仕組みを取り入れた製品を、環境への意識が高い欧州に少しでも早く浸透させるため、製品開発と販路開拓を同時進行で行いました。特に販路に関しては苦労したのを覚えています。というのも、A2W製品は日本のエアコンのように家電量販店で販売するものではなく、海外、特に欧州では『空調インストーラー』『暖房インストーラー』など専門の業者が存在するため、その業者の皆さんに合った販売部隊を立ち上げるところから始める必要があったのです」

日本で設計などを行い、マレーシアで開発し、欧州で販売する。パナソニックのA2W事業は、この3拠点から始まった。

そして近年欧州では、SDGsやエネルギー問題への関心の高まりの影響で、ますます環境に対する意識が強くなっている。そのニーズをメーカー各社が察知し、欧州へのA2W展開は熾烈化。パナソニックもリーディングカンパニーとして、2023年、チェコの製造拠点を中心として、欧州三か所(イタリア、フランス、チェコ)に開発拠点を設けた。

小松原は、「チェコの拠点ではもともとテレビの生産を行っていましたが、地場生産が求められるA2Wの生産拠点として、生まれ変わることになりました。現地の従業員はパナソニックのスピリッツを持つ製造のプロたちで、この経験を活かしたい。そこで、室内機、室外機、ともに製造の研修を行い、引き続きパナソニックで働いてもらうことを決めたのです。そして、欧州展開の本格化にあたり、『One team One Goal』というスローガンを打ち立てました。国籍や働く国、バックボーンも全く違うメンバーが一つの目標に向かって全力を尽くす。過去の経験から、チーム力こそがお客様に選んでいただくために欠かせないことを理解していたため、発信しました」と設立の経緯を語る。

そんなチェコ拠点の立ち上げにあたって、現地で調達業務を担うことになったのが渡邉だ。この抜擢に「ついにチャンスが来たと感じた」と渡邉は語る。

「入社当初から海外勤務を希望していたので、これまで国内で携わっていた調達業務にチェコで取り組めると決まった時は、喜びとワクワクが込み上げましたね」

日本とはまったく異なる環境やフローに、 いかに対応していくか。

これまではマレーシアで製造を行っていたため、サプライヤーの多くがアジア圏のメーカーである。ところが、チェコで製造をするうえで、アジアから欧州へ材料を運ぶには2カ月以上の期間を要してしまう。このリードタイムが長いと生産変動に追いつけず、在庫不足や長期在庫になる危険があるのだ。そこで、欧州における新規のサプライヤー開拓を任されたのが渡邉だ。

「チェコに赴任してからは欧州7ヵ国に出張し、新規サプライヤーとの新材料の商談や既存サプライヤーとの関係強化に力を入れています。しかし、ただ現調化すればいいわけではなく、アジア材の方が圧倒的にコスト競争力がある、なんてことも。リードタイムとコスト競争力のバランスで、現調化するものと輸入するものを判断していきます。また、このバランスは輸入関税の変化や欧州の国境炭素税などの制度の変化によって、逆転する可能性があります。そのため2030年までの間で、短期のサプライヤー選定と中長期でのサプライヤー選定を分けて考えることが重要なのです」

調達のリードタイムも然り、製造業における効率は何よりも重要だ。チェコで製造する製品を日本で設計する本郷は、現地の作業効率化のために大幅な設計変更をすることもあると語る。

「ある時、組み立て作業の効率化のために設計変更を行いました。実際に現地に訪問して作業を確認すると、これまでよりもかなり生産性が向上。それにより、生産数を高めながら、作業者の残業時間も削減でき、チェコ拠点のワークライフバランスに貢献できたのです」

本郷は効率化のみならず、欧州の展示会で大きな注目を集めた「K/Lシリーズ」という製品の設計にも携わった。これは、自然冷媒というシステムを採用した日本初のモデルで、温室効果ガスを数値化した「地球温暖化係数」が非常に低いことで話題となった。K/Lシリーズの商品企画を担った酒井が開発の苦労を語った。

「この製品はプロパンを冷媒として用います。プロパンは二酸化炭素の排出量が少なく環境には優しいのですが、非常に燃えやすいガス。そのため、安全性には非常に気を遣いました。また、日本のエアコンや室外機は白色がメインですが、欧州では歴史が古い家が多く白があまりマッチしません。そこで他製品には少ないダークグレー色を採用したのです。環境への配慮とデザイン性が評価され、展示会で多くの反響をいただけました」

また、数ヶ月後には渡邉と同様に海外勤務となるのが、A2Wの室外機の構造設計を担う織田だ。パナソニックとして初めてとなる欧州現地でのA2W室外機構造設計に、フランスで取り組む予定だ。

「会社として初めての商品を、スピード感を持って生産していく。これが私のミッションです。省スペースで、求められている機能を実現する。難しい仕事ですが、精一杯取り組みます」

これまで通りの常識やノウハウが通用しない海外展開。一つ一つの経験が、メンバーを成長させている。

パナソニックが、環境問題の 救世主になる日を目指して。

欧州でのシェア拡大に向けてそれぞれの場所で全力を尽くすメンバーたちに、今後の目標を聞いた。酒井は海外での勤務も視野に入れていると語った。

「商品企画としてのキャリアに磨きをかけ、抜群の製品を世に出したいです。各部門にそれぞれの考えがあったり、市場との距離が遠く現場感を培うことが難しかったりするため、100%全部門が納得する製品にすることは非常にハードルが高いです。ただ、そのハードルを乗り越えて、社内の全員にとって自慢になるような製品づくりをすることが私の夢です。そのためにも、日本を超えて、市場により近い場所で製品を企画し、現場とその他の拠点をつなぐような存在になっていきたいと思っています」

また、本郷は「A2Wの開発を通して環境問題の改善に寄与し、持続可能な社会に少しでも貢献していくことで、自分の子どもが大きくなった時に自慢できるような存在になりたいです。そのためにも、より高品質で効率的な製品にすることで競争力をあげて、市場シェアの拡大に貢献していきたいです」と語る。

織田も、子どもに誇れる技術者が目標だと語る。

「子育てと開発業務を両立する技術者になることが目標です。開発した製品・技術で世界中に快適な暮らしを届け、自慢の母親でありたいです」

海外勤務という夢を叶えた渡邉は、この先のキャリアを見据えて目標を立てている。

「将来は海外拠点の調達責任者を目指しています。責任者は今以上の人数に対するマネジメントが必要になります。今回のチェコ赴任で感じた人を動かす面白さを原動力に、マネジメント能力を伸ばし続けたいと考えています。また、沢山の部材に関わるなかで、1つ1つの部品が事業全体へ及ぼす影響がわかるようになり、業務に対する視点が広がりました。今後は調達職能の専門性とマネジメント能力を深め、事業に貢献できるリーダーになりたいです」

最後に、小松原にA2W事業の展望と未来への期待を聞いた。

「A2Wは日本の技術で生まれました。日本の技術が地球環境問題に貢献しているのです。そんな状況下で、省エネ、省資源をはじめとした環境技術で世界に貢献したいと思ってくれる仲間たちとともに事業を拡大し、皆の幸せを創っていきたいです。偶然選んだ道で、偶然出会った仲間たち。そんな全然違う人たちが、一致団結し同じ目標を目指す。その過程で、『パナソニックに入って良かった』と感じてもらえたら、こんなに嬉しいことはないですね」

欧州でのA2W事業はまだ本格化したばかり。だが、一歩一歩前に進み続けている。

※所属・インタビュー内容は取材当時(2024年2月)のものです。

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