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インサイドストーリー 02

国産大型CO2 冷凍機の実現

港で冷凍マグロなどを保管する倉庫には、大型冷凍機の稼働が不可欠です。海外では環境負荷のない自然冷媒を用いた製品が普及していますが、日本では省エネ性、施工性、メンテナンス含めて導入に課題がある。その課題解決へ向け、大型CO2冷凍機の開発を進めるプロジェクトメンバーに話を伺いました。

  • コールドチェーンソリューションズ社

    コールドチェーン事業部 冷凍機商品技術部

    冷凍機開発一課 第二係 係長

    2017年入社

    新井隆広

  • コールドチェーンソリューションズ社

    コールドチェーン事業部 冷凍機商品技術部

    冷凍機開発一課 第二係

    2021年入社

    原口和音

  • 地球の未来を守るため、 1台でも多く開発、普及させたい。

    海外製品に依存しない、 国産大型CO2冷凍機開発への挑戦。

    ノンフロン冷凍機の需要は、欧州を中心に高まりつつある。ノンフロン冷凍機は、冷媒にフロンを使用しないためオゾン層破壊係数ゼロで GWP(地球温暖化係数)が一桁程度の自然冷媒を用いた冷凍機システムのことだ。すでに特定フロン(CFC)だけでなく、代替フロン(HFC)も地球温暖化を進行させる要因であることが分かっており、段階的な規制強化がモントリオール議定書の改正(キガリ改正)により進むことが予測されている。こうした中、日本においてもGWPの低い自然冷媒への切り替えが今後進むと、新井は語る。

    「冷媒規制が先行している欧州では、大型冷凍機に用いられる自然冷媒はCO2冷媒が主流となっています。日本でも、今後はGWPの低いCO2冷媒への切り替えが加速するでしょうね。一方、国内コンビニ、店舗向けの中・小型CO2冷凍機においては約90%の高いシェアを誇る当社ですが、今後いかに欧州市場での競争力強化を図るか、国内での大型CO2冷凍機の需要とシェア拡大をいかに図るかが課題となっています」

    競争力のある国産の大型CO2冷凍機を市場展開するために、企画、開発、品質、営業、調達、製造のメンバーでプロジェクトを立ち上げた。新井の後輩として新卒間もない時期からプロジェクトに参加した原口はこう説明する。

    「冷凍機は、冷媒を用いて熱交換を行うガスクーラーと、圧縮機、制御機能を搭載する機械室に分かれています。当初はそのどちらも海外の部品を使用していたのですが、日本の規格に合わせた仕様に変えていくと海外生産ではコスト高となり、リードタイムも長く、製造管理もできないといった課題がありました。このため、低コストで高性能の製品を安全にお客様へ提供するために、新規国内生産の開発に着手したのです」

    前例がなくて誰もが不安。 だがそれが、開発のモチベーションになる。

    中・小型CO2冷凍機の製造ノウハウはあるものの、大型機となれば話は別だ。例えば前述のように、中・小型CO2冷凍機が活躍する場所は主にコンビニや店舗、あるいはスーパーとなる。しかし大型CO2冷凍機の場合は、港にあるような大規模な食品冷凍倉庫が主戦場だ。海からの潮風、湿度、気温の変化への対応も考慮しなければならない。もし開発に失敗し、故障が頻発すればパナソニックの看板に傷がついてしまう。そうした点にプレッシャーは感じなかったのだろうか。

    新井は「もちろん感じました」と言う。

    「コンビニやスーパーはもちろんそうですが、大規模な食品冷凍倉庫でもし冷凍機にトラブルが起こると、倉庫のオーナーおよび管理会社はもちろん、仲卸業者、さらに卸先の店舗にいたるまで莫大な損失が発生します。低コスト、高性能であることに加え、万が一にも故障することのない大型CO2冷凍機を、ほぼゼロベース、ゼロマニュアルで製作しなければなりません。チームの誰もが、本当にできるのだろうか? というプレッシャーの中で開発を進めていました」

    しかしそんな新井の言葉に「でも、プレッシャーだ、不安だと言いながらも、新井さんを含めチームの皆さんはなぜかニコニコしてましたよね」と原口は返した。

    「この会社の技術者たちって、どうやら無理難題を言われたり、前例のない案件を振られたりするほどテンションが上がるみたいなんです。私も入社したばかりで、いきなりマニュアルゼロの責任あるプロジェクトに参加することになり、正直不安でした。その不安を新井さんに打ち明けた際、こんなアドバイスをいただいたんです。『みんな不安なんだよ。前例がないという意味で、上司も私たちも君も同じスタートラインなんだ。一緒にこの不安を楽しんで、ノウハウをゼロから生み出していこうよ』と。その言葉に、この会社の技術者としてのスピリットを垣間見たような気がしました」

    開発は仮説、仮説、仮説。 そこから真の顧客満足を導き出す。

    開発は、まず大型CO2冷凍機が設置される現地の調査から始まった。新井は、「何よりもお客様が実際にどこで、どのような用途で冷凍機を利用するのか、どのような機能を求めているのかを知ることが、重要な足掛かりとなる」と言う。

    「納入する場所が海の近くなのか、山間部なのか、あるいは街中なのか、どのような規模でどのような品物を冷凍するのか、さらには製品を上階に運ぶ際のエレベーターの大きさはどうなのか。オーダーをいただいていきなり研究室や実験室にこもるのではなく、何よりも大切なのは使う人がいる現場を知ることなのです。パナソニックの精神を表す言葉の一つに『物をつくる前に人をつくる』がありますが、これは“物をつくる前に人を知る”にも通じ、物づくりと向き合う私たち技術者サイドの重要なスタンスとなっています」

    そして数限りないトライアンドエラーが積み重ねられることになる。数限りないアイディア会議と設計、それに基づいて協力会社とさまざまな部品を製作し、実験室で試作機を組み上げ、実験を繰り返す。いったいどのような苦労があったのか、その問いに原口はこう答えた。

    「とにかく失敗は何度も繰り返しましたけど、それを苦労と感じたことは一度もないですね。例えば、私はガスクーラーの開発を担当しているのですが、熱交換をする場合は非常に高圧なガスを配管に送り込まなければなりません。そのためには配管の厚みを上げて耐圧性を高める必要があるのですが、そうするとガスクーラーの重量と容積が増し、部品加工が難しくなり、製造コストも上がってしまいます。配管の素材や厚みをさまざま変えながら失敗を繰り返しました。そうした失敗の中でメンバーの一人が気づいたんです。『これまでのデータで配管が破裂する箇所は分かった。ならばその部分だけを補強すればいいのでは』と。今考えれば当たり前なのですが、その知見を得られたのは、数々の失敗があったおかげです。『失敗がなければ、いい製品は生まれないよ』。なかなか評価がうまくいかない時にそう励ましてくれた新井さんの言葉を、私は今も覚えています」

    新井は、実験室の試験環境では起きない品質不良に悩まされ続けたと言う。

    「私が印象に残っているのは、お客様の倉庫に製品を納入した後の苦労ですね。何度も実験を重ね、絶対の自信をもって納めたのにもかかわらず、その後何度も『部品からのオイルにじみがある』とお客様より呼び出しがかかったことを鮮明に覚えています。行くと確かにオイル溜まりができているんです。トラブルの部位や部品を特定するのにも時間がかかりましたが、それを交換しても再び同じトラブルが起こります。『納入前はあれほどスムーズに稼働していたのに、いったいなぜ?』と頭を抱えました。社に帰り、メンバーと推理を重ね、皆思いつく限りの仮説を出し合いました。会議はまるで仮説、仮説、仮説の嵐です。その仮説を一つひとつ地道に検証しつぶしていくうちに、次第に課題が絞られてきました。それは管と管をジョイントする樹脂製部品が、実験室にはない気温変化、継続的稼働による温度変化により疲労していたことが原因だったのです。お客様に何度もお叱りを受けながらその原因を探り当て解決した時は、心から『ああ、安心して眠れる』と思いましたね」

    実験室では決して得られないデータがある。それは、実際に製品を稼働させるお客様の現場が一つひとつ異なり、それによって製品のパフォーマンスや耐久度がさまざまに変化するということだ。新井も原口も口を揃えるようにこう語る。

    「私たちにとってプロジェクトは、納品することがゴールではないんです。納品後のさまざまな環境変化に遭遇しても、安心、安全に使い続けられる製品を提供する。そういう意味では、お客様もプロジェクトに関わっていただいている一人だと考えています。納品時は、まるで一生懸命育てた子を送り出すような気持ちですし、いつも『ちゃんと役に立ってくれているかな』と毎日様子を覗いてみたい気持ちになります」

    技術者として大きな夢を語り合える人間と、 一緒に働きたい。

    そうした新井と原口に、パナソニックで働く魅力と、自身の未来について聞いてみた。

    「そうですね。この会社は若手だからと言ってプロジェクトでも雑用をさせられたり、発言を求められなかったりすることはありません。むしろ逆で、どんどん新しい視点を取り入れて、何とか課題を解決しようと意見を求められることばかりです。ですので、自分で自分を成長させることに意欲的な人はパナソニックに向いているかもしれませんね。私も、冷凍機械責任者をはじめとするさまざまな資格を取得している最中で、少しでも大型CO2冷凍機普及の力になれればと考えています」と原口。

    一方新井は、「地球という大きな視点で夢を語り合える技術者でありたい」という想いを語る。

    「実を言えば、私はパナソニックの競合会社に在籍しこちらへ中途入社した人間です。なので、他にない会社の空気、社員の雰囲気の違いも分かり、とても魅力に感じる部分がいくつもあります。その1つを挙げるとすれば、『社員の誰もが大きな夢を持っている』と感じたことです。技術者はともすれば目の前の開発や改良、そのための細々としたデータ収集に追われがちです。しかしパナソニック社員同士の会話でよく耳にするのは、『いつか環境問題にイノベーションを起こすような技術を開発しよう』『地球環境にはどんな技術開発が必要だろう』といった内容なんです。私もそんな仲間たちと働くうち、『地球の未来にインパクトのある技術者になる』という夢を抱くようになりました。これから就活を考える皆さんにはぜひ、そんな大志を抱ける会社を選んでほしいですし、大きな夢を語り合える人と私は一緒に働いてみたいですね」

    ※所属・インタビュー内容は取材当時(2024年2月)のものです。

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