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インサイドストーリー 01

サーキュラー エコノミーへの挑戦

地球温暖化や気候変動など、世界規模の環境問題が発生するなか、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としない循環型の経済システムであるサーキュラーエコノミーに対する国際的な関心は高まる一方。パナソニックもその考えに賛同し、さまざまな取り組みを行っています。ここでは、環境貢献と利益創出を両立する新たなビジネスモデルの創造に挑む3人のメンバーが集まり、取り組みの裏側や未来への展望について語りました。

  • コンシューマーマーケティングジャパン本部

    エンゲージメントセンター戦略企画部企画課 課長 兼

    パナソニックマーケティングジャパン株式会社

    経営企画センターDX企画室

    2002年入社

    吉田克己

  • パナソニックマーケティングジャパン株式会社

    経営企画センターDX企画室 室長

    2008年入社

    磯部

  • コンシューマーマーケティングジャパン本部在籍

    パナソニックマーケティングジャパン株式会社

    経営企画センター DX企画室 出向

    2020年入社

    夏井

  • サーキュラーエコノミー実現に向け、 新たなビジネスモデルを創出する。

    IoT延長保証サービス実現のため、 100万件のデータから故障率を導く。

    サーキュラーエコノミーとは、これまで破棄されていた製品や原材料を再利用・リサイクルし、資源価値の最大化を行うことで環境負荷の低減を目指す、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としない循環型の経済システムのことである。この考え方は、欧州を中心に広がりを見せ、現在では、国内においても経済産業省が「循環経済ビジョン」を発表するほど着目されている。パナソニックもその考えに賛同し、循環型のビジネスへの取り組みが始まった。経営層とも連携して事業推進の中核を担う吉田はこう語る。

    「私たちメーカーにおいては、製品をお客様に長く使用してもらうことと、お客様の手から離れたとしても、リユース品として市場全体で長く使ってもらうことが、重要だと考えています。一方で、長く使ってもらうということは、その分買い替えの時期が遅くなるということ。環境貢献と収益確保をいかに両立させていくかを念頭に、新たなビジネスモデルを模索しています」

    パナソニックの取り組みの一つに、IoT延長保証サービスがある。既存のメーカー保証に加えて、プラス2年間の修理保障を付帯するこのサービス。主な目的は、IoT家電の販促と製品のインターネット接続率の向上だ。販売後にもお客様とつながり続け、お役立ち情報を定期的に提案することで、エンゲージメント向上を狙う。磯部はこのプロジェクトについて、こう分析する。

    「お客様にとっては無料で保証期間が延長され、我々にとってはお客様とのタッチポイントが増える。加えて、製品使用年数の長期化による環境への好影響もあり、三方よしの取り組みだと考えています」

    2023年4月に発表され加入者が順調に増え続けるこの施策だが、実現に至るまでにいくつもの壁が存在した。最たるものが、品質基準との兼ね合いだ。保証期間を2年延ばすということは、その期間分の修理や配送のコストが上乗せされるということ。パナソニック側のコストやお客様の手間を考えても、できるだけ修理件数は少ない方がいい。その大きな責任を担うこととなる品質部門への交渉は、簡単ではなかった。ただ取り組みを提案するだけでは、当然許可はおりない。納得してもらうには、延長しても問題がないことを裏付ける絶対的なエビデンスが必要となる。交渉を担った吉田は、2年間の延長による故障率の増加幅を割り出すことに決めた。

    「過去に届いた修理のお問い合わせ内容から、イレギュラーな故障を除いた、年数ごとの故障率を算出しました。過去のお問い合わせ数は100万件以上。そのすべてを確認し、まとめていきました。さらに、故障率は冷蔵庫や電子レンジなど、製品ごとに異なります。短い期間のなかでそれぞれのデータを割り出し、2年間の延長の妥当性を導き出す。それと同時並行で複数の製品担当者と交渉も進める。非常に難易度の高い仕事でした」

    社内での交渉が終わると次は、販売代理店やお客様へのサービスの周知や修理工場への作業工程の浸透など、ローンチ後に向けた準備が始まる。お客様がサービス加入時にアクセスするWebサイトの内容検討とUIの制作は、夏井が担った。

    「サービスに加入するまでは、各種登録など若干の手間が発生します。その段階で離脱されてしまうのはお客様と私たちの双方にとってもったいないこと。そのため、ページを開いて数秒でサービスの魅力が全面に伝わるような設計にして、加入への期待感を高めるようなサイトづくりに仕立てました。また、実はこのサイトの制作は、吉田さんの品質部門への交渉と同時並行で進めていたのです。交渉の中で細かい仕様や内容の変更がある可能性も考慮し、タスクをきっちり管理しながら、制作を進めていきました」

    社内調整から実装後の体制づくりまでを、一気通貫で行ったこのプロジェクト。進行フローと事業内容の両方において前例の少ない取り組みに、手探り状態で模索を続けた。その分、ローンチ後のやりがいは大きかったと吉田は語る。

    「家電量販店でサービス告知のシールが貼られているのを見たときは、喜びが込み上げました。加入者も毎週増加しています。とはいえ、対応する製品ラインナップの拡大や、IoTでつながったお客様に対して発信していく内容の検討など、取り組むべき内容はまだまだ多い状況。サービス品質の向上に向けて、改善を続けていきます」

    社内では前例のない挑戦。 ドライヤーの再生済み中古品のサブスクサービス。

    IoT延長保証サービスプロジェクトを経験した夏井はその後、磯部とともにリユース・リファービッシュプロジェクトにも取り組んだ。これは、新品として出荷された後にさまざまな理由で当社に戻ってきた家電を、当社グループ監修の下、厳格な出荷基準を満たすかたちで再生(リファービッシュ)し、再び市場に流通させる事業である。現在はサブスク型のサービスで当社のもとに返却されたドライヤーから再生・販売のトライアルを実施中。新品ドライヤーのサブスクサービスで発生した戻り品を再生し、再生済み中古品として新品よりも安価でサブスク展開する事業がローンチされている。限りある資源を大切にしたいという思いから、「環境負荷や経済ロスの発生を改善できないか」という意見が発端となり、第一弾としてドライヤーの再生済み中古品のサブスクサービスのプロジェクトが立ち上がったのだ。メーカー再生済み中古品を提供するという前例の少ないこの取り組み。ネックとなったのは、品質基準と利益だったと夏井は語る。

    「中古品を再生して販売するうえでの品質基準は当然、社内には存在していませんでした。修理にどのような部品を使うのか、その部品はいくらで仕入れるのか、どんなフローでサービスを実現させるかなど、1から基準をつくっていくことが必要です。また、新品の販売やサブスクも行うなかで、それよりも安い再生済み中古品のサブスクを展開することによる、ターゲットのバッティングや利益の減少なども加味しなければいけません。ここに関してはデータ分析で一定の妥当性がでていますが、正直、やってみないとわからないというのも本音です」

    現在は先行してドライヤーのサブスクがローンチされているが、今後、製品の買取・再生・販売など、ビジネスとしてさらに発展していく可能性が高い本プロジェクト。IoTによりインターネットでつながったお客様の製品使用データが、重要な役割を持つと磯部は語る。

    「IoTを通じてお客様の状況を把握していることにより、ライフステージに合わせた製品提案ができると考えています。例えば、30代前半で1人目のお子さまが生まれた方が、『まだ子どもが小さいから』と小型の洗濯機を購入されたとします。数年後に2人目が生まれ、上の子がスポーツを始めると、『洗濯機の容量が足りないけど、10年くらい使わないともったいないよね』と考えることが想定できます。そんなときに利用年数を把握しているこちらとしては、洗濯機の下取りや家庭環境に合った洗濯機を提案できますよね。また、それで買い取った小型の洗濯機を、再生済み中古品として単身学生に安く販売するという選択肢も生まれます。このように、循環型のビジネスにはIoTが欠かせないと考えています」

    また、データ利用はお客様にとっての納得感にもつながると夏井は話す。

    「一般的に下取りは、型番ごとに一律での買い取りであることが多いです。ところが、買ったばかりで売りに出す人もいれば、長年使用して手放す人もいる。それなのに、下取り価格が両者で同じだというのは、納得感に欠けます。そこで、『Aさんは50時間利用しているのでこの価格です。Bさんは500時間なのでこちらです』とデータを根拠に提示できれば、下取り価格に妥当性をもたせることができると考えています。また、再生済み中古品として販売する際も、『この製品は前の利用者が30時間使用したものを、当社の厳格な基準の下で再生しております』といったように開示すれば、購入検討における不安の払拭にもつながります」

    このプロジェクトを起点として、今後リユース・リファービッシュの可能性は広がっていく。そう確信した3名の使命感は、熱く燃えている。

    この潮流は、一時の流行りではない。 現在地は、企業としての転換点。

    これから事業の中核を担うこととなる入社4年目の夏井は、これまでのプロジェクトを通して何を学んだのだろうか。

    「サーキュラーエコノミー領域は、当社としてはもちろん、国際的にみてもまだまだ未整備の領域で、企業・団体・行政機関などさまざまなプレイヤーが重層的なレイヤーで活動しています。私はこれまでのプロジェクトを通して、未開拓で正解のない新しい分野において、どのように『センスよく』進むかという点が重要であると学びました。センスとは、公開情報だけでなくその裏側までリサーチし本質を理解する力や、企業価値を最大限発揮するための立ち回り方のこと。そのセンスを身につけるため、社外セミナーへの参加や人脈の獲得、実務のなかでの思考を重ねていきたいです」

    ますます注目度が上がると予想されるサーキュラーエコノミー。今後の展望について吉田はこう考える。

    「サーキュラーエコノミーとは単に、『流行っているから対応していかなければならないこと』というレベルに留まる潮流ではありません。一国、ひいては地球全体の資源枯渇リスクや気候変動リスクへの対策でありながら、国際競争力の獲得における新たなビジネスチャンスでもあります。またお客様との関係性の転換点だとも捉えています。これまでの売り切り型のビジネスモデルと循環型ビジネスモデルの強烈なハレーションにも正面から向き合い、お客様と地球環境に貢献していかなければならないと考えています」

    吉田と同じく磯部も、ここがパナソニックにとっての大きな転換点だと捉えている。

    「少子高齢化の影響により、日本の人口減少が著しいうえに、可処分所得の減少も顕著です。現在のビジネスモデルで今後も利益を出すには、売価をあげ、ハイブランドとして一部の方のみをターゲットに事業を継続していくという選択肢を取るほかありません。ところがその姿は、パナソニックがこれまで大切にしてきた、創業期の『水道哲学』や『くらしを支えるベストパートナー』を目指すビジョンとは相反するもの。だからこそ、ビジネス構造自体の変革が必要だと考えています。そういった意味で、循環型のビジネスは、パナソニックの新たな未来を切り開く重要な事業だと感じています」

    サーキュラーエコノミーの実現は簡単ではない。だが、確かな一歩目を踏み出した。これからも、彼らの挑戦は続く。

    ※所属・インタビュー内容は取材当時(2024年2月)のものです。

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