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インサイドストーリー 03

パーソナル食洗機 「SOLOTA」の開発

「食洗機国内普及率を上昇させる」。その使命を果たすために動き出した若年層向け食洗機「SOLOTA」の開発プロジェクト。2020年、部門を横断した若手社員がチームを組み、企画から販促までを担いました。ここではリーダーとメンバーの合計3名が集まり、開発の裏側や、絶対に譲ることのなかったこだわりについて語りました。

くらしアプライアンス社

キッチン空間事業部

冷蔵庫・食洗機BU

国内マーケティング部

冷蔵庫商品課

2012年入社

宮本侑弥

くらしアプライアンス社

くらしプロダクトイノベーション本部

デザインセンターAD3部ビルトイン課

シニアデザイナー

2017年入社

松本優子

くらしアプライアンス社

キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU

食洗機技術部 コンパクト商品設計課

主任技師

2015年入社

健吾

若年層向けの新たな食洗機開発。

部門を横断した若手社員たちの挑戦。

使用者の生活に、もう一度立ち返る。 コンセプトは足元にあった。

日本の食洗機使用者の満足度は非常に高いというデータがある。一度使った人が手洗いに戻ることは少なく、経年とともに新たな機種に買い換えて使用し続ける。一方で、食洗機の国内普及率は30%未満。満足度が高いのに、なぜ使用率が低いのか。初めての食洗機購入タイミングは結婚や家の購入といった人生の節目が多く、一生のなかで頻繁にあるわけではない。パナソニックは、この購入機会の少なさが低普及率の要因だと考えた。反対に、人生の出来るだけ早いタイミングで食洗機へ興味を持ってもらえたのであれば、使用率は高まるはず。そこで、いままでニーズがないとされてきたひとり暮らしの若年層への需要探索に乗り出した。開発リーダーを担った楠は当時をこう振り返る。

「今回のターゲットは20~30代の若年層。そこで、開発メンバーとして12人の若手社員が集められました。企画・デザイン・設計・製造・マーケティングなど、さまざまな部門の社員が企画段階からプロジェクトチームを組む開発体制は社内でも先進的で、これからどう形になっていくのか楽しみと不安がどちらもありました」

チームを結成して初めに取り組んだのは、若年層に興味を持たれる食洗機やサービスのアイデア出しだ。全員が自由に発言し、大量のアイデアが生まれた。ところが、発想自体は面白いものの、実際にお客様が使用する姿が想像できない意見ばかり。そう、夢ばかりが膨らみ、どのようなユーザーが購入、あるいは使用し、どんな課題を解決できるのかという土台の考え方が抜けてしまっていたのだ。プロダクトデザイナーとして参加した松本は、その後の動きについて「今一度、お客様視点に徹底的に向き合った」と話す。

「お客様をとにかく知るため、ターゲット世代である自分たちのキッチンや食器の写真を持ち寄ったり、定性調査・定量調査を実施したりして、ターゲットユーザーの生活実態や価値観を具体的にしていきました」

今一度、地に足をつけて若年層の暮らしに向き合ったプロジェクトチーム。その取り組みが功を奏し、これまでになかった新たな2つの視点が浮かび上がった。それが、「ひとり暮らしが日常的に使用する食器は6点程度と少なく、同じ食器を毎日使い回す」「洗い物の数に限らず、洗い物があるということ自体がストレスに感じる」というもの。この視点が商品コンセプトを急速に具体化させた。マーケティングを担った宮本は、コンセプトについてこう語る。

「食器が少なくたって、自炊をそれほどしなくたって、食洗機を使ってもいい。食洗機は贅沢品じゃない。そう伝えられるものを開発しようと、チームで意見がまとまりました。『ひとり暮らしにちょうどいい食洗機をつくる』を共通認識に、具体的なデザインや機能を考えるフェーズに突入しました」

一度は使用者像を見失いかけた。ところが、自分たちの生活を見直すことで、提供すべき価値が明確となったのだ。

絶対譲れないこだわりを、 全員が共有していた。

今回のターゲットは、もともと食洗機の購入を視野に入れているわけではない若年層だ。そこで、デザインにおいても「一目で惹きつける佇まい」「ひとり暮らしの部屋に設置しても圧迫感のない外観」など、瞬時に魅力と現実性を感じてもらうための工夫が必要となった。

松本は「惹きつけるデザインを意識しながらも、機能も考慮しなければいけません。特にこだわったのは、前面と背面の両方から中を覗ける透明な窓です。従来の食洗機は洗浄中の汚れを隠すため、窓があっても半透明のものが一般的です。ところが、食洗機に初めて触れる世代にとっては『ちゃんと洗えているのだろうか?』という不安があるため、むしろ中は見えた方がいいと考えました。また、前背面が吹き抜けに見えることで、圧迫感の軽減にもつながります。窓のデザインは、この食洗機の一番の肝だと定めメンバーに共有しました」と話す。

開発においては、想定していたデザインが技術的な理由で叶えられないことも少なくない。この前背面の窓も技術的には非常に難しく、実装までにいくつもの壁があった。例えば、サイズの制約だ。限られたサイズのなかで2つの窓を設けつつ、水漏れがしない設計をしなければならない。また、ひとり暮らし向けであるためコストの制約もあり、部品点数にも制限がある。さまざまな障害が立ちはだかるデザインの実現のため、何度もメンバーで協議する。そんな厳しい状況下でも、「窓はあきらめましょう」と言う者はいなかった。楠がこう振り返る。

「全員が企画段階から参加したことで、『新たなターゲットを開拓するこの製品には、それを象徴する要素が絶対に必要だ。この窓はそれになりえる』という共通認識が生まれていました。だからこそ、全員が実現に向けて動き続けたのです」

妥協すべきでない部分は徹底的にこだわる姿勢で、ついに量産を実現させたこの食洗機は、ひとり暮らしを家電の技術でアシストしたい(Solo Technological Assistant)という思いを込めて「SOLOTA」と名付けられた。「SOLOTA」は、プロモーションにおいても従来の食洗機とは違う手法をとった。販促戦略の立案に貢献した宮本が語る。

「これまでとはターゲットが異なり、食洗機にまだ関心がない人々の認知・関心を得るために、新たな手法を考案する必要があります。キーワードとなったのは『マーケットに気づきをもたらす』『大きなインパクトを与える』ということ。そこで、当時国民的ヒットとなっていた人気アニメとのタイアップを実行。さまざまなタッチポイントを設けて、若年層へのアプローチを行いました。また、月額制の定額利用サービスも立案。初期費用を抑えてSOLOTAを試していただけるよう、工夫を凝らしました」

「ここは絶対に妥協してはいけない」。そんな共通認識が、不可能だと思われていたデザインと性能の両立を実現させた。そして、全く新たな販促手法に導いたのだ。

自分自身の成長と 社会への新たな価値提供。

発売後は大きな話題となり、右肩上がりで人気を獲得し続けている「SOLOTA」。3人のメンバーはこのプロジェクトからどのような学びを得て、どう変化したのだろうか。

宮本は「若手を中心に課題に挑戦し、結果を出したことで大きな自信につながりました。また、0から生み出したものを世の中に広めていく難しさと楽しさも同時に味わいました。間違いなく成長の糧となったプロジェクトですね」と話す。

一方で松本は仕事観そのものが変化したと振り返る。

「これまで私は、比較的黙々とデザインするのが好きなタイプだったのですが、今回チームで議論をしながら進めたことで、一人では突破出来ない壁もチームでなら越えられることを実感しました。発売後は予想以上に良い反応をいただけて、自分たちがこだわって実現した部分がきちんとお客様に価値として届いたことに、なによりもやりがいを感じました」

リーダーを務めた楠も、企画から販促までを一つのチームで挑んだ経験が成長につながったと語る。

「普段の仕事では、領域が違う方に自分の仕事について相談することや、逆に向こうの仕事に意見を言うことは少ないですが、今回はその境界なく、幾度も議論をしました。お互いに本音で話し合ったからこそ、1本軸の通った魅力的な製品が完成したのだと思っています。『SOLOTA』はいままで想定していなかったお客様に問いかける商品であり、お客様にとってのファースト食洗機であることがほとんど。しっかり市場からの声を聴き、今後の開発に活かしていくことが重要だと考えています」

ターゲット世代が中心となり部門横断で実行した挑戦的なこのプロジェクトの成功もあり、パナソニックでは部門横断チームでの開発が増えている。「SOLOTA」の開発は、日本の食洗機業界、そしてパナソニック社内に対しても大きな影響を与えたプロジェクトとなったのだ。

※所属・インタビュー内容は取材当時(2024年2月)のものです。

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